はじめに
ヤング・シンプソン症候群(Young-Simpson syndrome : 以降はYSSと記載します)は、1987年にYoungとSimpsonによって初めて報告され、2011年Clayton-SmithらによりKAT6B遺伝子が原因であることが分かりました。KAT6B遺伝子は、Genitopatellar症候群(性器膝蓋骨症候群)の原因遺伝子としても知られています。YSSとGenitopatellar症候群は別の疾患というより、同じKAT6B遺伝子異常症における症状の違いとして説明されています。YSSは現在まで約30例の報告が確認されており、日本からも複数例の報告があります。今後、更に患者さんの情報が集まってくることも期待されます。
どういう症状があるの?
この体質を持つ方では成長や発達、からだつきの特徴など、いくつかの注意した方がよい症状が知られています。以下の症状は限られた報告をもとにまとめられたものであり、起こりうるすべての症状を網羅している訳ではありません。また、同じ体質を持つ方でも、症状の種類や重さには個人差があることが知られており、すべての症状を必ず持つとは限りません。想定される症状について先回りして検査しておく必要があるのか、みられた症状が体質と関係したものかどうか判断する際の目安となるものです。
よくみられる症状
発達
のんびりしている方が多いと言われます。運動発達の目安は、平均でお座り18か月(12か月-3歳)、独歩3.5歳(2-5歳)と報告されています。独歩が出来ない方もいるようです。言葉に関しては、発声のみの方、単語を話す方、短い文章で話す方など程度は様々です。最初に言葉が出てくる時期としては4-5歳が多いようです。表出言語よりも理解言語の力に優れるようです。のんびりした発達に対し、療育(発達支援)が検討されます。
哺乳
新生児期から哺乳が苦手な方が多く(半数以上)、経管栄養(鼻から胃にチューブを挿入し、直接栄養を注入すること)が必要になる方もいます。その後、上手になっていきますが、慎重に評価する必要があります。
眼の症状
産まれたときから眼瞼裂(目の横幅)が狭いことが知られています。症状が強い場合、視野が十分に確保できず視力に影響が出ることがあります(弱視と言います)。この場合、形成術も検討されます。それ以外に視神経低形成、鼻涙管(眼と鼻の間にある涙が流れる管)閉塞、近視、斜視なども起こしやすいと言われます。眼科の先生による評価・フォローが重要になります
そのほかの症状
骨格
多指症(指の本数が多い)、合指症(指が他の指とくっついている)、内反足(足が内側を向いて固まっている)、膝の骨の形成が弱い、関節拘縮(関節の動きに制限がある)、脊柱側弯(背骨の横方向への曲がり)などを認めやすいと言われます。症状があれば、整形外科や形成外科の先生にも診察してもらい、装具療法や手術療法、リハビリテーションを行う場合があります。
心臓
約半数の方で先天性心疾患を持つと報告されています。先天性心疾患があった場合、循環器科の先生と治療方針を相談します。
腎・泌尿器
約40%の方で、停留精巣(精巣が陰嚢内にないこと)、尿道下裂(尿道が陰茎の先ではなく位置がずれること)など外性器の所見を合併することがあります。泌尿器科の先生に見てもらい、手術で治療することがあります。
甲状腺
約20%の方で甲状腺機能異常を合併します。定期的に採血を行います。
上記以外に成長障害(低身長、体重増加不良)、けいれん、難聴、歯の異常なども報告されています。
どういうふうに家族へ遺伝するの?
この体質は、常染色体顕性(優性)遺伝というパターンで伝わることが知られています。ほとんどの場合、新生変異(精子や卵子が作られる過程で偶然おきた遺伝子の変化)によるものであり、誰のせいでもありません。新生変異の場合、次子再発率(同じ体質をもつお子さんを妊娠ごとに授かる確率)は、一般頻度と同じ程度と考えられます。ただし、一般的に遺伝子の違いにより発症する症例では親子間で症状の種類や重さが大きく異なる場合があり、子がもつ遺伝子の変化を、親も持っているにも関わらず、親の症状は軽微なため気づかれていない事例があります。この場合次の妊娠でYSSの体質を持つ子を授かる可能性は50%と見積もられます。
遺伝に関するお話を希望される方は、遺伝カウンセリングにて対応できますので、ご相談ください。
利用できる社会資源はあるの?
現在(2023年8月)、活動している家族会はありません。
ヤング・シンプソン症候群は指定難病や小児慢性特定疾患に登録されています。
合併している症状や、その重症度に応じて医療費助成や療育手帳などのサポートを受けることができる可能性があります。気になる方は外来受診の際に担当医に確認してください。
ヤング・シンプソン症候群は指定難病や小児慢性特定疾患に登録されています。
合併している症状や、その重症度に応じて医療費助成や療育手帳などのサポートを受けることができる可能性があります。気になる方は外来受診の際に担当医に確認してください。